ちょーさん


16歳

私がまだ頑張って高校デビュー陽キャの仲間入りしようとしていた頃。

大して仲良くないクラスの女の子に男女6人のカラオケに誘われた。

今で言ったら合コンになるのか

相手は大学1年生。

当時の私からしたらリア充中のリア充なお誘いなのだけど、事が飛躍しすぎてそれすらよく分かっていなかった

合コンの内容自体はよく覚えていない

後日、誘ってくれた子に

「あの中で誰かいい人いた?」

と聞かれた。

そんなことを聞かれると思っていなかった私がまごついていると、

男子の中に1人私を気に入った人がいるという。

キタ-------------------!!

とはならないのがにわか陽キャの辛いところで

ただただビックリ

そして嬉しかった、

自分が陽キャとして認められたようで。

携帯電話すらない時代、

家族に電話を取り次いでもらっては

受話器の向こうで友達に冷やかされる

部活で忙しい彼との会話を楽しんだ。

デートもした

充実していた

楽しくて仕方ない

はずだった。

ダメだった。






葛西臨海公園の浜辺で

何も理由を言わず

突然

別れたいと

彼に言った

それだけ言ってうつむく事だけでその時の私にはいっぱいいっぱいだった。

彼はもちろん悲しそうに

「なんで」

と聞いた。

私はそれでも何も言わずうつむくだけしか出来なかった

本当に。

それしか出来なかった。



彼は

怒らなかった

せっかくだからもらってと

その時持っていたプレゼントをくれた。





ガキとは

こういうことだ。





あんなに憧れていたのに

あんなに楽しかったのに

天にも登るような気持ちも味わった

背が高くてカッコイイ人だった

一生懸命私を笑わせようとしてくれた

なのに

私は逃げた。





「何も言わずに逃げた」

「理由さえ告げずに逃げた」



「なんで」


にすら答えないことがどんなにひどいことか今は分かる


何も伝えなかった

自分のことしか考えてなかったから

彼はそうじゃなかったのに。






私は

楽しかった時のことはあっと言う間に忘れるのに

辛かった時の記憶は永遠に鮮明に覚えている馬鹿な奴なので

何回デートしたかも覚えていないのに

彼が私を笑わせるためにしてくれたであろうたくさんの面白い話も覚えていないのに

彼と会っている間ずっと

自分が緊張して無理をしていた事だけは覚えている

それすらも伝えてない




彼から逃げて

ただ家に帰って寝転びながら漫画を読み

家でダサい服を着て気兼ねなくアニメを見ていたかった

ただそれだけ

ミーハーに陽キャに憧れたバカが

誠実に私を好いてくれた人をもて遊び

いざとなったら

怖くなって

自分の手に負えなくなって

捨てたのだ。

自分がした事の酷さにも気づかず

別れた後

さっさと陰キャに戻ってホッとして

自分のことしか考えていない。


ガキ





彼がくれたプレゼントの意味などその時は一切考えずしまい込んだ

センスのいいパジャマだった。


彼は


私と過ごしたほんの短い期間だけど

手も握らなかった

私自身はデート中どんな態度だったかなどもちろん覚えていないけど

多分味気なかっただろうに

彼は終始

誠実だった。



若い青年が下心がないはずがない。



今ならわかる

どれだけ自分が大切にされていたか



もしかしたらだけど

パジャマの意味も。





彼を美化しているかも知れない

数いる女の1人だったかもしれない

そうではない確信はあるけれど。




謝ってもいない


感謝も伝えていない


理由を言って納得させてもない


後悔しかない





世の中うまくできている


若さに溢れて

パワーに溢れてても

あんなにも浅い



今はこんなにも簡単に思えることが

信じられないくらい出来なかった

分からなかった


今はこんなに深く分かるのに


でも


あの時

浅いからこそ

楽しかったし

嬉しかったのかもしれない。



そして彼が優しかったからこそ

後悔が深い。





私を好きになってくれてありがとう




手首を切る1年前だから

もう既に言動がおかしくなってたかも知れないけど

あなたは優しかった


あなたのお陰で楽しかった


人を傷つけるとはどういうことかも知った


ごめんなさい



この悲しさは

こんな歳をとってもまだ消えない

大人になった今は

もちろんこんな失敗はしない

でもあの失敗を活かすことはできなかった

彼のような誠実な人間には結局なれなかった。