高齢者の事故

 

 

 

76才の母が鎖骨を骨折したらしい。

両親と同居している姉からのメールで知った。

以下抜粋、

 

「そう言えばお母さんが鎖骨骨折したよ」

「なんで?」

「自転車で転んで」

「自業自得だよ、私が散々二輪はもう危ないから(前から何度も転んでる)三輪車買ってやるからそれにしなっていったのにあの人、ん~まだ早いかな、とか言って拒否ったかんね。」

「でも子供を避けようとして転んだんだよ。」

「.......よかったじゃん、人様にけがさせなくて。」

 

私と姉のやり取りですが、ぞっとする点が1つあるのにお気づきだろうか?

 

「ん~まだ早いかな。」

 

ゾーーーーーーーッ

 

ここで言う三輪車とは自転車の後輪が横に並んで2つ付いていて間に荷物入れのカゴがあるあれ。お年寄りが乗ってるイメージがあると思う。

彼女は以前その三輪車のことを、

「あれっておばあちゃんみたいでなんかね~。」

と言ったのだ、70をとっくにすぎた身で。

これだけ見ると一見ただの見栄っ張りで若作りのおばあちゃんだか、彼女の本性は違う。

 

父の商売がうまくいかず、金がなくて家はボロボロ、家の中では穴のあいた服を着て、タマネギの茶色い皮で作った訳の分からない苦い料理(本人はアイデア料理だと思っている)を作る一方で、スーパーに行けばお勤め品や値引き品にはいっさい手を出さず、同じものでも必ず高い方を買う。

 

まあそれでも、自らの父を早くに亡くし、若い頃決して豊かとはいえない暮らしをしてきた“らしい”彼女であるから気持ちが分からなくもない。

でも私は知っている。

彼女は自分よりも身なりのみすぼらしい人や不幸そうな人の話をするとき、

「可哀想にねぇ。」

と言いつつも口元がにやついているのを。

 

なので上記の自転車の下りも私からみると、

 

「あんな乗り物よぼよぼのばあさんが乗るものじゃん。」

 

と軽蔑する母が思い浮かんでしまうのだ。

彼女自身も古い二輪車に乗っているだけなのに。

 

私は姉からのメールを受け取ったとき、何の驚きも心配する気持ちも湧かなかった。

もちろんお見舞いに行く気も、電話で母と話す気にもならなかった。

 

 

ゾーーーーーーーッ